2026年4月1日

 幼い頃、私は床ばかりを見ている子供だった。  理由は単純で、そこに何かがあったからだ。  最初は、それが何なのかわからなかった。けれど、誰かが口を閉ざすたびに、確かに足元には、硬く小さなものが転がる音がした。  なぜ誰もそれに気づかず、手を伸ばそうとしないのか、違和感ばかりが募っていった。  ある日、音の方に手を伸ばしてみると、指先に冷たいものが触れた。  私はその感触をそっと拾い上げ、眼前にかざした。  それは、どう見てもただの小石だった。どこの道端にでも落ちていそうな、薄い灰色の欠片。  どうしてそんなものを耳に押し当てようと思ったのか、今でもわからない。貝殻に海の音を聴くことさえ、まだ知らなかったはずなのに、気づけばそうしていた。  耳を澄ませると、押し当てた石からは、誰かが言いそびれた言葉の息づかいのようなものが聴こえた。  私はその日、沈黙に重さがあることを知った。